生理的・情緒的状態の管理とは|自己効力感を支える心身のコンディション

「やる気が出ない」「何をやっても気分が乗らない」——そんな日が続くとき、多くの人は自分の意志の弱さを責めます。

しかし原因は、意志ではないかもしれません。体と心の状態が整っていないだけという可能性があります。

自己効力感を高める4つの源泉のうち、最も軽視されているのが、この「生理的・情緒的状態の管理」です。地味で、成果が見えにくく、後回しにされます。しかし実際には、他の3つすべてを下から支えている土台です。

生理的・情緒的状態の管理とは

生理的・情緒的状態の管理とは、体調や気分を整えることによって、「自分にはできる」という感覚を保ちやすくすることをいいます。

心理学者アルバート・バンデューラが示した、自己効力感を高める4つの源泉のひとつです。

源泉 内容
達成(成功)体験 自分で実際にやり遂げる
代理体験 他者の成功を見て学ぶ
社会的・言語的説得 他者から励まされる
生理的・情緒的状態 心身の状態を整える

Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. *Psychological Review*, 84(2), 191–215.
Bandura, A. (1997). *Self-Efficacy: The Exercise of Control*. W. H. Freeman.

なぜ、これが土台なのか

体調が悪いとき、前向きな気持ちになれた経験はあるでしょうか。

おそらく、ないと思います。眠れていない、疲れが抜けない、気分が落ちている。そういう状態では、どんな方法も効きません。

  • 小さな成功を積もうとしても、取りかかる気力がない
  • 誰かの成功を見ても、「自分には無理だ」としか思えない
  • 褒められても、言葉が入ってこない

他の3つの源泉は、心身が整っていてはじめて働きます。 ここを飛ばして方法論だけを実践しても、効果を実感できません。

逆にいえば、何をやってもうまくいかないと感じるとき、先に整えるべきはここです。

疲労は、放っておいてよいものではありません

高熱が出れば、人は休みます。頭痛がすれば、薬を飲むか病院に行きます。

では、「なんとなくだるい」「やる気が出ない」というとき、何か手を打っているでしょうか。多くの人は、何もしないまま続けています。

疲労は「警告」のひとつです

疲労は、痛み・発熱と並ぶ、体からの警告サインと位置づけられています。このまま続ければ不調になる、という知らせです。

痛みや発熱には対処するのに、疲労だけは軽く見られがちです。しかし、同じ重みを持つサインなのです。

一晩で戻る疲れと、戻らない疲れ

状態
一晩寝れば回復する 通常の疲れ。心配はいりません
寝ても抜けない/前日の疲れを持ち越す 注意が必要な状態

後者が長く続く場合は、自分で解決しようとせず、医療機関にご相談ください。 本記事は医学的な助言ではありません。

疲れのサインは「好きなことが面倒になる」

自分の疲れは、意外と気づけません。分かりやすい目印があります。

本来は好きなはずのこと、苦にならなかったことが、面倒に感じる。

  • 友人との約束が億劫になる
  • いつもは歩く距離なのに、乗り物を使いたくなる
  • 趣味に手が伸びない

これは気分の問題ではなく、疲れている証拠です。意志で押し切ろうとせず、休むサインとして受け取ってください。

「休む」は、横になることだけではありません

ここが、この章でもっとも実用的な部分です。

疲れたとき、多くの人は「寝る」「何もしない」を選びます。それも休養のひとつですが、それだけでは回復しない疲れがあります。

休養を7つの型に分けて考える休養モデルという枠組みがあります。

分類 型 内容
生理的 休息型 活動を止めて心身を静める
運動型 体を動かして老廃物を流し、代謝を促す
栄養型 食事を整え、体の働きを助ける
心理的 親交型 人や自然、生き物と触れ合う
娯楽型 趣味や好きなことに没頭する
造形・想像型 何かを作る、考えを巡らせる
社会的 転換型 買い物、旅行、模様替えなど環境を変える

※ 杉田・片野モデルとして知られる枠組みです

重要なのは、組み合わせること。 寝るだけでは取れない疲れが、体を動かすことで取れたり、人と話すことで軽くなったりします。

疲れの種類によって、効く休養は違います。自分にはどの型が効くのかを知っておくと、回復が早くなります。

そしてもうひとつ。今日の疲れは、できるだけ今日のうちに。 小さな休養をこまめに重ねるほうが、溜めてから大きく休むより確実です。

心のコンディションを整える

体と同じく、気分にも手を入れられます。

落ち込んでいるとき、人は現実をそのまま見ているわけではありません。思考のクセが、見え方を歪めています。

たとえば、10人のうち9人が良い評価をくれても、1人の否定だけが頭から離れない。これは「心のフィルター」と呼ばれるクセで、否定的な情報だけを拾い上げてしまう状態です。

ネガティブな考えに、4つの問いを

考えが浮かぶこと自体は止められません。しかし、その考えを検証することはできます。

  1. それは事実か?
  2. そう考える根拠は何か?
  3. 誰がそう決めたのか?
  4. それは誰の問題か?

この4つを自分に問いかけると、客観的な視点が戻ってきます。考えが現実を正しく映していないときに、そのことに気づけるのです。

とくに4番目は効きます。抱え込んでいる問題の多くは、実は自分だけの問題ではありません。

落ち着いてから、振り返る

ひとつ注意があります。気分が落ちている最中に分析しようとしても、うまくいきません。

そのときは身体感覚、過去の記憶、頭に浮かぶ映像など、さまざまなものが同時に押し寄せています。冷静な検証ができる状態ではないのです。

少し落ち着いてから、「あのとき自分は何を考えていたか」を振り返ってください。 そのほうが、自分のクセに気づけます。

繰り返すうちに、クセは少しずつ緩みます。

自分の「トリセツ」を作る

最後に、もっとも大切なことです。

心身の整え方に、万人共通の正解はありません。 疲れを感じるタイミング、効く休み方、気分の戻り方は、人によってまったく違います。

だからこそ、自分用の取扱説明書を作ってください。

1. 記録をつける

毎日の体調と気分を書き留めます。睡眠時間と質、食べたもの、運動量、疲労の度合い。続けるうちに、自分のパターンが見えてきます。

「水曜の午後に落ちる」「6時間を切ると翌日に響く」——こうした自分固有の傾向は、記録しないと分かりません。

2. いろいろ試す

リラックスの方法はたくさんあります。軽い運動、音楽、自然の中を歩く、湯船につかる、何も予定を入れない時間を作る。

人がよいと言う方法が、自分に効くとは限りません。 試して、合うものを見つけてください。

3. 試行錯誤を続ける

一度で最適解は見つかりません。合わなければ変える。 その繰り返しが、自分のトリセツになっていきます。

企業・組織での活かし方

この領域は、個人の自助努力として扱われがちです。しかし組織の側にできることが、かなりあります。

研修の前に、整っているか

意欲向上の研修を実施しても反応が鈍い。その原因が、疲弊そのものであることは少なくありません。

疲れ切った状態の人に、新しい行動を求めても定着しません。 研修の効果は、受け手のコンディションに大きく左右されます。

「意欲の低下」を個人の問題にしない

やる気が見えない社員がいるとき、本人の姿勢の問題として扱われることがあります。しかし前述のとおり、意欲の低下は疲労のサインであることがあります。

ここを取り違えると、必要な休養ではなく叱咤が与えられ、状態はさらに悪化します。

休み方を教えている組織は、ほとんどありません

多くの企業が、働き方は教えても休み方は教えていません。 休養には型があり、組み合わせが要るという知識があるだけで、回復の質は変わります。

休むことに罪悪感がある人には、届きません

ここが本質的な問題です。

休養の知識を伝えても、実行できない人がいます。 理由は時間ではありません。

  • 「自分だけ休むのは申し訳ない」
  • 「この程度で疲れたと言ってはいけない」
  • 「休む資格があるほど成果を出していない」

休むことに罪悪感を持つ人は、休めません。 そしてこれは、スケジュールの問題ではなく、自分をどう見ているかの問題です。

ここに、自己効力感と自己肯定感の違いがあります。

内容
自己肯定感 ありのままの自分を認める感覚。「自分には価値がある」
自己効力感 特定の課題を遂行できるという見込み。「自分にはできる」

自己肯定感が低いと、「何かを成し遂げた自分」しか認められません。 だから、休むことが自分への裏切りのように感じられます。結果として回復せず、疲労が蓄積し、さらに成果が出なくなります。

詳しくは自己肯定感と自己効力感の関係で解説しています。

JISEの研修は、両方を扱います

一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会(JISE)の企業研修は、自己肯定感と自己効力感の両方を扱う点に特徴があります。

健康経営やメンタルヘルスの施策は広がっています。しかし現場では、こうした状態に突き当たります。

  • 制度は整えたのに、休暇が取得されない
  • 相談窓口を設けても、利用されない
  • 不調を申告できず、限界まで抱え込む人がいる

仕組みを用意するだけでは、使われません。 「自分には休む価値がある」と思えることが前提になります。

JISEでは、その土台にあたる自己肯定感を整えたうえで、心身のコンディションを保つ方法を扱います。順序を逆にすると、どれだけ制度を作っても機能しません。

管理職研修、メンタルヘルス研修、若手の定着支援など、目的に応じた構成が可能です。

企業研修のご案内自己効力感を高める企業研修の作り方|4つの源泉にもとづく5つの手法

まとめ

生理的・情緒的状態の管理は、体調と気分を整えることで、自己効力感を保ちやすくすることです。4つの源泉のなかで最も軽視されますが、他の3つを支える土台です。

押さえるべき点は4つです。

  1. 心身が整っていないと、他の方法は効かない。うまくいかないときは、まずここを疑う
  2. 疲労は警告のサイン。好きなことが面倒に感じたら、疲れている
  3. 休養には7つの型がある。寝るだけでは取れない疲れがある
  4. 自分用のトリセツを作る。万人共通の正解はない

今日からできることをひとつ挙げるなら、今夜、今日の疲れの度合いを1行だけ記録してみてください。 1週間続けると、自分のパターンが見えてきます。

さらに詳しく学びたい方へ

本記事は、工藤紀子『自己効力感の教科書』(総合法令出版)の第6章をもとに構成しています。

同書では、睡眠・食事・運動それぞれの具体的な整え方、疲労と休養の仕組み、思考のクセへの対処、幸福感を高める方法を、本書中もっとも多くのページを割いて解説しています。自己効力感を高める4つの源泉それぞれに章を設け、全272ページで体系的に扱った一冊です。

レジリエンスが身につく自己効力感の教科書

工藤紀子『自己効力感の教科書』総合法令出版

Amazonで見る

工藤紀子

一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。専門分野は自己肯定感(セルフエスティーム)、組織開発、メンタルヘルス。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)など。キリンホールディングス、KDDI、NTTグループ、住友化学、ユニリーバ、日本赤十字社ほかで企業研修を担当し、受講者はのべ28,000名以上。

1

自己効力感

自己肯定感

TOP
TOP