なぜ「自己効力感の本」は見つけにくいのか
書店やネット書店で「自己効力感」を探すと、似た言葉である「自己肯定感」の本ばかりが並びます。自己効力感そのものを主題にした日本語の本は、決して多くありません。
理由は大きく2つあります。
ひとつは、提唱者アルバート・バンデューラの主要著作の多くが邦訳されていないこと。自己効力感の集大成といえる Self-Efficacy: The Exercise of Control(1997年)は、現在も日本語版が出ていません。
もうひとつは、日本では「自己肯定感」への関心が先に広がったことです。自己肯定感が「自分の存在を認める感覚」であるのに対し、自己効力感は「自分ならできるという確信」です。土台と、そこから一歩踏み出す力。両者は別のものですが、書籍市場では前者に偏ってきました。
このページでは、原典から実践書まで、自己効力感を学ぶために実際に手に取れる本を整理します。書誌情報は国立国会図書館サーチおよびopenBDで確認したものです。
目的別・どれから読むか
- 理論を正確に知りたい → バンデューラの邦訳書から
- 自分や部下の自己効力感を高めたい → 日本語の実践書から
- 研究・論文で引用したい → 英語の原典・原著論文へ
- まず土台から整えたい → 自己肯定感の本から
1.理論を原典で学ぶ|バンデューラの邦訳書
激動社会の中の自己効力
アルバート・バンデューラ 編/本明寛・野口京子 監訳、金子書房、1997年11月(ISBN 978-4-7608-2283-6)
原題は Self-Efficacy in Changing Societies。変化の激しい社会のなかで、個人と集団の自己効力感がどう働くかを論じた論集です。教育、健康、組織といった領域ごとに章が分かれており、自己効力感を社会的な文脈で捉えたい方にはこの一冊が出発点になります。
日本語で読めるバンデューラの著作のうち、自己効力感を正面から扱ったものとして最も参照されています。
社会的学習理論:人間理解と教育の基礎
A.バンデュラ 著/原野広太郎 監訳、金子書房(ISBN 978-4-7608-8017-1)
自己効力感は、社会的学習理論という土台の上に築かれた概念です。人が他者の行動を観察して学ぶという「モデリング」の考え方は、のちに自己効力感の4つの源泉のひとつ「代理体験」につながります。
自己効力感がどこから生まれた概念なのかを理解したい方向けです。
人間行動の形成と自己制御:新しい社会的学習理論
A.バンデュラ 著/原野広太郎・福島脩美 訳、金子書房
行動がどのように形成され、人が自分自身をどう制御するかを扱います。自己効力感の前段にある「自己制御」の理論を押さえられます。
2.英語の原典にあたる
研究や論文で引用する場合は、次の2点が基本文献です。
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
自己効力感という概念が最初に提示された論文です。 - Bandura, A. (1997). Self-Efficacy: The Exercise of Control. W. H. Freeman.
20年の研究を集大成した単著。邦訳はありません。
前者は自己効力感の4つの源泉(マスタリー体験・代理体験・言語的説得・生理的および情動的状態)を示した論文で、現在も最も引用されています。
3.実践的に身につける|日本語の実践書
レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書
工藤紀子 著、総合法令出版、2024年9月(ISBN 978-4-86280-962-9)
当サイトを運営する一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事の著書です。自己効力感を高めるための方法を、4つのアプローチとして体系的にまとめています。
自己肯定感を土台に、一歩踏み出す力として自己効力感を位置づける構成で、理論を知るだけでなく、日々の行動に落とし込みたい方に向いています。大人だけでなく、子どもの自己効力感を育てる視点も扱っています。
東洋経済オンライン、ZUU online、人材開発情報誌『企業と人材』などで紹介されました。
4.土台となる自己肯定感から学ぶ
職場の人間関係は自己肯定感が9割
工藤紀子 著、フォレスト出版、2019年
職場の人間関係という具体的な場面から自己肯定感を扱った一冊。自己効力感に取り組む前に、まず土台を整えたい方に向いています。
そのままの自分を受け入れて 人生を最高に幸せにしたいあなたへの33の贈り物
工藤紀子 著、三恵社
ありのままの自分を受け入れるという、自己肯定感の中核を33のテーマで扱っています。
5.働き方・キャリアの文脈で読む
世界の一流は「休日」に何をしているのか
越川慎司 著、インプレス
第3章で自己効力感が正面から扱われています。「自己肯定感」ではなく「自己効力感」を重視する理由、そして自己効力感を高める4つのアプローチ(小さな達成感を得る/新しいことに挑戦する/人とのつながりを大切にする/自己省察の時間を持つ)が示されています。
ビジネスの文脈で自己効力感の位置づけを知りたい方には入りやすい一冊です。
読む順番の提案
はじめて自己効力感に触れる方には、次の順番をおすすめします。
- 日本語の実践書で全体像をつかむ — 概念と実践方法を一度に把握できます
- 『激動社会の中の自己効力』で理論を確認する — 実践書で得た理解の裏づけが取れます
- 必要に応じて英語の原典へ — 研究・論文で引用する場合
理論から入ると挫折しやすく、実践書だけだと根拠が曖昧なまま終わりがちです。実践書で地図を持ってから原典に戻るのが、遠回りに見えて確実です。
本を読んだあとに
自己効力感は、読むだけでは変わりません。バンデューラが最も効果的とした源泉は「マスタリー体験(成功体験)」、つまり実際にやってみて、できたという経験だからです。
本で得た知識を行動に変えるための具体的な手順は、次のページで解説しています。
