自己効力感(じここうりょくかん/self-efficacy)とは、ある課題に対して「自分ならできる」と思える確信のことです。心理学者アルバート・バンデューラが1977年に提唱しました。
漠然とした前向きさや性格の明るさとは違い、「この場面で、この課題を、自分は遂行できる」という具体的な見通しを指します。だからこそ、後から育てることができます。
自己効力感とは何か
自己効力感は、カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura, 1925–2021)が、1977年の論文 “Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change” で示した概念です。原語は self-efficacy、セルフ・エフィカシーとも呼ばれます。
バンデューラは、人が行動を起こすかどうかを決めるのは「その行動が良い結果をもたらすか」という予測だけではないと考えました。もうひとつ、「その行動を自分は実行できるか」という見通しが必要だというのです。
たとえば「運動すれば健康になる」と知っていても、運動を続けられる気がしなければ人は動きません。前者を結果期待、後者を効力期待と呼び、この効力期待こそが自己効力感にあたります。
つまり自己効力感は、知識と行動のあいだを埋めるものです。正しい方法を知っているのに動けない、という状態の正体がここにあります。
自己効力感と自己肯定感の違い
日本では「自己肯定感」という言葉のほうが広く知られているため、混同されがちです。しかし両者は指しているものが異なります。
| 自己肯定感 | 自己効力感 | |
|---|---|---|
| 何に対する感覚か | 自分の存在 | 自分の遂行能力 |
| 言いかえると | 自分は存在していていい | 自分ならできる |
| 条件 | 何かができなくても保たれる | 課題ごとに高低がある |
| 働き | 安心の土台になる | 一歩踏み出す力になる |
大切なのは、この2つが積み重なる関係にあることです。自分の存在を認められていない状態で「できる」という確信だけを積み上げようとしても、土台が不安定なため長続きしません。失敗したときに、能力への疑いが存在の否定にまで及んでしまうからです。
当協会が自己肯定感を土台と位置づけ、その上に自己効力感を育てるという順序を重視しているのは、この理由によります。
詳しくは自己肯定感と自己効力感の違いで解説しています。
自己効力感を生み出す4つの源泉
バンデューラは、自己効力感が次の4つの情報源から形成されるとしました。自己効力感を高めたいときに何をすればよいかは、この4つに整理できます。
1. 成功体験(マスタリー体験)
自分で実際にやってみて、できたという経験です。4つのなかで最も強く自己効力感を高めます。
ただし、簡単すぎる課題をこなしても効力感は育ちません。ある程度の努力を要する課題を、自分の力で乗り越えたという実感が必要です。逆に、繰り返しの失敗は自己効力感を下げます。
そのため実務では、難易度を段階的に上げていく設計が重要になります。
2. 代理体験
自分と似た立場の人が、その課題をやり遂げるのを見る経験です。「あの人にできたなら、自分にもできそうだ」という見通しが生まれます。
ポイントは「自分と似ているか」です。遠くかけ離れた成功者の話より、同じ部署の同僚や、少し前の自分と近い状況にいた人の例のほうが効きます。
3. 言語的説得
周囲から「あなたならできる」と言葉で励まされることです。単独では効果が長続きしませんが、他の源泉と組み合わせると力を持ちます。
ただし、根拠のない励ましは逆効果になり得ます。実際には難しい課題を「できる」と言われて失敗すれば、自己効力感はかえって下がるからです。具体的な事実にもとづいた言葉であることが条件です。
4. 生理的・情動的状態
そのときの体調や感情の状態です。疲れている、動悸がする、気分が沈んでいる——こうした状態を人は「うまくいかない徴候」と解釈しがちです。
逆に言えば、睡眠や休息を整えることは、自己効力感を支える土台になります。精神論の前にコンディションを整えるべき理由がここにあります。
自己効力感が高い人・低い人の違い
| 自己効力感が高い | 自己効力感が低い | |
|---|---|---|
| 課題の選び方 | 挑戦的な目標を選ぶ | 失敗しない範囲を選ぶ |
| 困難に直面したとき | やり方を変えて粘る | 早い段階であきらめる |
| 失敗の受け止め方 | 努力や方法の問題と捉える | 能力の問題と捉える |
| ストレス | 対処できる見通しを持てる | 脅威として感じやすい |
注意したいのは、自己効力感は「高い/低い」の2種類ではないことです。同じ人でも、仕事では高く人前で話す場面では低い、ということが普通に起こります。課題ごとに異なるのが自己効力感の特徴です。
自己効力感の3つの次元
バンデューラは、自己効力感を3つの側面から捉えました。自分や部下の状態を見立てるときに役立ちます。
- レベル(水準)…どのくらい難しい課題まで「できる」と思えるか
- 強度…その確信がどれだけ揺るがないか。困難に出会ったときに保てるか
- 一般性…特定の場面だけか、他の場面にも広がるか
「できると思う」と答えた2人がいても、片方は少しの障害で揺らぎ、もう片方は粘るということが起こります。強度の違いです。
自己効力感はどう測るのか
自己効力感は目に見えないため、質問紙を用いて数値化するのが一般的です。日本語で広く使われている一般性セルフ・エフィカシー尺度のほか、特定の課題に絞った尺度も用いられます。
研修の前後で測定すれば、変化を定量的に確認できます。
具体的な尺度の種類と使い方は自己効力感の測定尺度まとめで解説しています。
自己効力感を高めるには
自己効力感は生まれつき決まっているものではなく、4つの源泉に働きかけることで育てられます。
最も効くのは成功体験ですが、いきなり大きな目標を立てても失敗して逆効果になります。目標を小さく分け、達成できる単位に落とすことが出発点です。
具体的な手順は次のページにまとめています。
よくあるご質問
自己効力感と自己肯定感は何が違いますか?
自己肯定感は「自分は存在していていい」という、自分の存在そのものに対する感覚です。自己効力感は「自分ならできる」という、課題を遂行する能力に対する確信です。自己肯定感は何かができなくても保たれますが、自己効力感は課題ごとに高低があります。当協会は自己肯定感を土台とし、その上に自己効力感を育てるという順序を重視しています。
自己効力感は誰が提唱した概念ですか?
カナダ出身の心理学者アルバート・バンデューラ(Albert Bandura, 1925–2021)が、1977年の論文「Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change」で提唱しました。社会的学習理論を土台とする概念です。
自己効力感は後からでも高められますか?
高められます。自己効力感は生まれつき決まっている性格特性ではなく、成功体験・代理体験・言語的説得・生理的および情動的状態という4つの源泉に働きかけることで育てられるものとされています。
自己効力感を高める最も効果的な方法は何ですか?
4つの源泉のうち、最も強く作用するのは自分で実際にやってできたという「成功体験(マスタリー体験)」です。ただし簡単すぎる課題では効力感は育たず、逆に繰り返しの失敗は低下させます。ある程度の努力を要する課題を段階的に設定することが重要です。
自己効力感はどうやって測るのですか?
質問紙を用いて数値化するのが一般的です。日本語では一般性セルフ・エフィカシー尺度が広く使われているほか、特定の課題に絞った尺度もあります。研修の前後で測定すれば変化を定量的に確認できます。
自己効力感が高い人と低い人では何が違いますか?
課題の選び方、困難に直面したときの粘り強さ、失敗の受け止め方が異なります。自己効力感が高い人は挑戦的な目標を選び、うまくいかないときはやり方を変えて粘り、失敗を努力や方法の問題と捉えます。低い人は失敗しない範囲を選び、早い段階であきらめ、失敗を能力の問題と捉える傾向があります。