自己効力感と成功の関係|「高めれば成功する」は本当か

「自己効力感を高めれば、成功に近づける」——そう説明されることがよくあります。

では、それは本当でしょうか。研究を当たると、答えは「関係はある。ただし、順序が逆かもしれない」という、少し込み入ったものになります。

この記事では、自己効力感と成功の関係について、実際に検証された研究を示しながら整理します。高め方そのものは自己効力感を高める方法で扱っているので、ここでは「なぜその方法が理にかなっているのか」に踏み込みます。

「自己効力感が高い人ほど成功する」は、どこまで本当か

もっとも参照されているのは、1998年に発表されたメタ分析です。114件の研究、157の効果量、のべ21,616名を統合し、自己効力感と仕事の業績のあいだに重みづけ平均相関 .38 が認められました(Stajkovic & Luthans, 1998)。

心理学の職場研究としては大きい部類に入ります。「自己効力感の高い人のほうが成果を出しやすい」という傾向そのものは、この規模のデータで裏づけられていると言ってよいでしょう。

ここまでは、よく語られているとおりです。問題はこの先にあります。

ただし、原因と結果が逆かもしれない

先ほどの .38 は、人と人を比べたときの相関です。「自己効力感の高い人のほうが成果を出している」ことは示しますが、「ある人の自己効力感を高めれば、その人の成果が上がる」ことまでは示しません。

この違いは、実務では決定的です。前者が正しくても、後者が成り立たなければ、研修も声かけも空振りに終わります。

同じ人の中で追うと、関係が消える

この点を正面から検証したのが、2013年のメタ分析です。集団どうしを比べるのではなく、同じ人の中での時間的な変化を追いました(Sitzmann & Yeo, 2013)。

  • 自己効力感 → その後の成績:見かけの相関は .23。しかし成績の伸びの傾向を統制すると ρ = .06 まで落ちて有意でなくなりました。論文は「見せかけの相関だった」と述べています
  • 過去の成績 → 自己効力感:相関は .40。統制後も ρ = .30 で有意なまま残りました

矢印の向きが、通説とは逆です。論文の結論はこうです。

自己効力感は、将来の成果を動かす原動力というより、過去の成果が生み出した産物としての性格が強い。

2つの研究は矛盾していない

一見すると正反対のことを言っているようですが、見ている単位が違うだけです。

  • 人と人を比べれば、自己効力感の高い人のほうが成果を出している(1998年)
  • 同じ人の中で見れば、自己効力感だけが先に上がっても、それ自体が次の成果を押し上げるわけではない(2013年)

つまり「自己効力感が高い人は成果を出す」という観察は正しく、しかしそこから「だから自己効力感を高めよう」と短絡すると、手順を間違えるということです。

成功者の話を、どう読むか

自己効力感の記事では、著名な経営者やアスリートが引き合いに出されがちです。「彼らは自分を信じていたから成功した」という語り口です。

ここまでの研究を踏まえると、この読み方には注意が要ります。

  • 伝記は、結果が出たあとから語られる…成功したあとで振り返れば、当時の確信は「正しかった判断」として記憶されます
  • 同じだけ自分を信じて、届かなかった人は語られない…残った人だけを見て共通点を探せば、どんな特徴でも「成功の要因」に見えます
  • 順序が見えない…成果が先に出ていて、そこから確信が育った可能性を、伝記は区別してくれません

では成功者の話が無駄かというと、そうではありません。読むべきなのは確信の強さではなく、どんな段取りで小さな達成を積んだかのほうです。

たとえば大谷翔平選手と自己効力感では、目標達成シートを使って大目標を81個の小さな行動に分解した過程を取り上げています。注目したいのは「彼が自分を信じていたこと」ではなく、信じられる根拠を自分で作る仕組みを持っていたことです。

では、何をすればよいのか

研究が示す順序は明快です。先に来るのは「やってできた」という事実で、自己効力感はそのあとについてきます。

だとすれば、設計すべきは気持ちではありません。

1. 成功体験を「設計する」

自然に任せると、成功体験は都合よく積み上がってくれません。意図して作ります。

  • 大きな目標を、確実に達成できる単位まで分解する
  • 少し努力すれば届く難易度に調整する(簡単すぎると「自分の力でやった」感覚が残りません)
  • 難易度を段階的に上げる

「毎日30分運動する」が続かないなら「まず5分」から始めます。小さすぎると感じる単位から入るのが、結果的に速い方法です。

2. 目標は「具体的で、少し難しく」設定する

分解した先の目標をどう立てるかにも、蓄積があります。目標設定理論を35年ぶんまとめた総説では、具体的で難度の高い目標のほうが、「ベストを尽くそう」といった曖昧な目標よりも高い成果につながることが繰り返し確認されています(Locke & Latham, 2002)。

「頑張る」では、達成したかどうかを自分で判定できません。判定できない目標は、成功体験になりません。

  • 曖昧…「会議でもっと発言する」「英語を勉強する」
  • 具体的…「会議に質問を1つ用意して持参する」「通勤の行きだけ音声教材を聞く」

ただし、難度を上げるのは本人が「やれそうだ」と思える範囲までです。同じ総説では、目標へのコミットメントとフィードバックが条件として挙げられています。届かない目標を課せば、達成できない経験が積み上がるだけになります。

3. 「できた」を記録に残す

記憶は都合よく上書きされます。うまくいかない時期に入ると、過去の達成はまとめて割り引かれます。

研究が示したのは「過去の成果 → 自己効力感」という経路でした。その経路を機能させるには、過去の成果が参照できる状態で残っている必要があります。記録は精神論ではなく、この経路を通すための作業です。

4. 課題ごとに切り分ける

「自己効力感が低い人」というものは、厳密には存在しません。「この場面で低い」があるだけです。仕事では高いのに人前で話すときは低い、といったことは普通に起こります。

ですから最初にやるべきは、どの場面で低いのかを特定することです。対象が定まらないと、分解のしようもありません。

具体的な手順は自己効力感を高める方法:人生を変える5つのステップと変化を楽しむための簡単ステップガイドで扱っています。

分解の具体例

「人前で話すのが苦手」を例にすると、次のように段階を作ります。

段階 やること 達成の判定
1 会議に質問を1つ用意して持参する 手元にメモがあるか
2 用意した質問を実際に言う 発言したかどうか
3 準備していないことを1回発言する 同上
4 3分の報告を担当する やり切ったか
5 質疑のある場で説明する 同上

段階1は「発言する」ですらありません。それでよいのです。いきなり段階4から始めて失敗すれば、次の挑戦までの時間が延びるだけです。

判定欄を設けているのは、達成したかどうかを気分ではなく事実で決めるためです。「うまく話せた気がしない」は判定基準になりません。

ほめ方には落とし穴がある

周囲からの働きかけについても、押さえておきたい研究があります。

607の効果量、のべ23,663の観察を統合したメタ分析では、フィードバックは平均すると成績を改善する(d = .41)一方で、3分の1以上のフィードバックはかえって成績を下げていました(Kluger & DeNisi, 1996)。

論文が示した説明は、注意の向き先です。注意が課題そのものから離れて「自分」へ向かうほど、フィードバックの効果は落ちるとされています。

  • 効きにくい…「君はすごい」「見どころがある」。評価が人物に向いています
  • 効きやすい…「ここをこう変えたから通ったね」。注意が課題と方法に向きます

「ほめれば自己効力感が上がる」という単純な話ではありません。ほめ方を間違えると、成績はむしろ下がります。

同じことは、できていない点を伝えるときにも当てはまります。能力の問題ではなく、方法の問題として扱う。そうすれば注意は課題に留まります。

よくある誤解

「自信を持て」と言えば自信がつく

つきません。2013年のメタ分析が示したのは、自己効力感が先に動いても成果は動かないという結果でした。根拠のない励ましは、外れたときの反動が大きくなる分、かえって不利に働きます。

自己効力感は性格だから変えられない

性格ではありません。課題ごとに異なり、経験によって変わります。同じ人が、ある場面では高く別の場面では低い、という状態が普通です。

自己肯定感と同じもの

別のものです。自己肯定感は存在そのものへの肯定、自己効力感は特定の課題を遂行できるという見通しを指します。ただし無関係ではなく、自己肯定感が自己効力感を経由して行動に結びつくことが研究で示されています。詳しくは自己肯定感との関係をご覧ください。

たくさん挑戦させれば高まる

失敗が続けば下がります。挑戦の量ではなく、達成できる難度に調整されているかが要点です。

仕事の場面では、どう現れるか

組織のなかでは、自己効力感の差はこんな形で表れます。

  • 手を挙げるかどうか…新しい役割や難しい案件を引き受けるか
  • 相談できるかどうか…行き詰まったときに早めに助けを求められるか
  • 失敗後の回復…次の挑戦までにかかる時間

ここでも順序は同じです。「挑戦してみよう」と呼びかけるだけでは動きません。引き受けられる大きさの仕事を先に用意し、やり切った事実を残す——その積み重ねが、次に手を挙げる根拠になります。

一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会では、この順序にもとづいた企業研修を行っています。座学だけでなくグループワークを取り入れているのは、「やってできた」を研修のなかで経験してもらうためです。

取り組みの前後で変化を数値で確認したい場合は、自己効力感の測定尺度をご覧ください。

よくあるご質問

自己効力感が高ければ成功できますか?

「高めれば成功する」という一方向の関係ではありません。人と人を比べると自己効力感の高い人のほうが業績を出しやすい傾向がありますが(Stajkovic & Luthans, 1998)、同じ人の中での変化を追ったメタ分析では、自己効力感が先に上がっても次の成果は動かず、むしろ過去の成果が自己効力感を生んでいたことが示されています(Sitzmann & Yeo, 2013)。先に来るのは「やってできた」という事実のほうです。

自己効力感は性格ですか?変えられますか?

性格ではありません。課題ごとに異なり、経験によって変わります。同じ人でも、仕事では高いのに人前で話す場面では低い、ということが普通に起こります。そのため「自己効力感が低い人」と捉えるのではなく、「どの場面で低いのか」を特定することが出発点になります。

部下や子どもには、どう声をかければよいですか?

評価が人物に向かうほめ方は効きにくいとされています。607の効果量を統合したメタ分析では、フィードバックは平均すると成績を改善する一方で、3分の1以上はかえって成績を下げており、注意が課題から離れて「自分」へ向かうほど効果が落ちると報告されています(Kluger & DeNisi, 1996)。「君はすごい」ではなく「ここをこう変えたから通ったね」と、行動と方法に注意が向く伝え方が有効です。

目標はどのように立てればよいですか?

具体的で、少し難しい目標が有効です。目標設定理論の総説では、具体的で難度の高い目標のほうが「ベストを尽くす」といった曖昧な目標より高い成果につながることが確認されています(Locke & Latham, 2002)。ただし達成したかどうかを自分で判定できる形にしてください。判定できない目標は成功体験になりません。

自己効力感と自己肯定感は同じものですか?

別のものです。自己肯定感は自分の存在そのものへの肯定、自己効力感は特定の課題を遂行できるという見通しを指します。ただし無関係ではなく、自己肯定感が自己効力感を経由して行動に結びつくことが複数の研究で示されています。

効果はどのように測定できますか?

一般性セルフ・エフィカシー尺度(GSES)などの尺度を使い、取り組みの前後で比較する方法があります。日本語で使える尺度と選び方は「自己効力感の測定尺度」のページで解説しています。

関連ページ

参照した研究

  • Stajkovic, A. D., & Luthans, F. (1998). Self-efficacy and work-related performance: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 124(2), 240–261. doi:10.1037/0033-2909.124.2.240
  • Sitzmann, T., & Yeo, G. (2013). A meta-analytic investigation of the within-person self-efficacy domain: Is self-efficacy a product of past performance or a driver of future performance? Personnel Psychology, 66(3), 531–568. doi:10.1111/peps.12035
  • Kluger, A. N., & DeNisi, A. (1996). The effects of feedback interventions on performance: A historical review, a meta-analysis, and a preliminary feedback intervention theory. Psychological Bulletin, 119(2), 254–284. doi:10.1037/0033-2909.119.2.254
  • Locke, E. A., & Latham, G. P. (2002). Building a practically useful theory of goal setting and task motivation: A 35-year odyssey. American Psychologist, 57(9), 705–717. doi:10.1037/0003-066X.57.9.705
工藤紀子

一般社団法人日本セルフエスティーム普及協会 代表理事。専門分野は自己肯定感(セルフエスティーム)、組織開発、メンタルヘルス。著書に『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)、『職場の人間関係は自己肯定感が9割』(フォレスト出版)など。キリンホールディングス、KDDI、NTTグループ、住友化学、ユニリーバ、日本赤十字社ほかで企業研修を担当し、受講者はのべ28,000名以上。

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